自費出版で気をつけよう。他書籍の引用や転載
自費出版に限りませんが、書籍を刊行したり原稿を執筆したりするときに気をつけたいのが、他書籍や文献からの引用や転載。
今回は、法律的な難しい話はせず、一般的なマナーと考え方について触れていきます。
■引用の一般的なマナー
引用とは何か。感覚的な話ですが、ある書籍などから数行抜き出すことをいいます。例えば、太宰治の「津軽」という小説の冒頭を抜き出すとします。
或るとしの春、私は、生れてはじめて本州北端、津軽半島を凡そ三週間ほどかかつて一周したのであるが、それは、私の三十幾年の生涯に於いて、かなり重要な事件の一つであつた。
これくらいであれば「引用」です。
引用した場合、引用した箇所に、下記のように掲載しておくのがマナーです。
『津軽』太宰治、●●文庫、●●●●年
書名は『 』で括ります。レポートや論文からの引用なら「 」です。レーベル名でもいいですし、出版社名でもいいです。
巻末に参考文献としてまとめておいてもいいです。
■転載の一般的なマナー
「引用」と比較して、「転載」はどんなものになるのか。なかなか定義づけは難しいです。
ある書籍を作ろう、原稿を書こうといったとき、先行研究や文献が存在したとします。それらを踏まえた上で、書籍を作る、原稿を書くことになる。当然、それらの研究内容などが触れられている書籍や文献を参考にしないとならない。本文でも多く引用することになる。
こういった場合は、「転載」に当たるでしょう。もっと単純な(と言うより乱暴な)言い方をすると、ある書籍から何十個も引用を行う場合。
転載するとき、先に挙げた参考文献欄に当該書籍名などを掲載することはもちろん、その著者、あるいは出版社の許可を取っておくのがベターです。この作業を怠ると、あとから訴訟問題にもなりかねません。
例えば、上記の太宰治の「津軽」に関する論文を書くとします。この場合は、特に許可は要りません。太宰治の著作権はすでに切れていますし、「津軽」はいろいろな出版社から刊行されています。
一方、たとえ著者が亡くなっていても、著作権が切れておらず(没後70年です)、著作権者がいるときも、許可を得る方がベターだということです。
著作権者が誰だかわからない場合は、出版社に尋ねてもいいでしょうし、公益社団法人著作権情報センターに尋ねてみるのでもいいでしょう。「わからないからいいや」という判断は避けましょう。
■転載に費用はかかるのか
では、転載するとき費用はかかるのか。これは話し合いによります。一律にいくら、というのも決まっていません。もちろん無料の場合もあります。
お金の話はしにくいものです。しかし、避けては通れない道。事前に著者あるいは著作権者に率直に聞いてみるのがベターです。交渉の際は、原稿を郵送などで送っておくことも忘れてはいけません。メールで添付は少しマナーに反します。先方がいいと言えば構いません。内容や引用度合いによって、金額を決めることもありえます。
小説や絵本の場合は、あまり引用・転載を考える必要はないでしょう。歴史、経済といった社会科学全般においては、十分考えられることです。
原稿を書いてしまったあとに許可取りを行い、許可がおりなかった、という可能性もあります。なるべく事前に調べておき、あるいは下交渉をしておくと原稿も労力も無駄にならないでしょう。